いりごまをそのまま振りかけたときより、すり鉢ですった直後のほうが、ふわっと強い香りを感じることがあります。
同じごまなのに、なぜ「する」だけで香り方が変わるのでしょうか。
結論からいうと、ごまの香ばしい香りは主に「煎る」工程で作られ、その香りを感じやすくするのが「する」工程です。
すりつぶすと粒の組織が壊れ、内部にある油分や香気成分が表面へ出やすくなり、低沸点の香気成分(比較的揮発しやすく、鼻へ届きやすい香り成分)も感じやすくなります。
この記事では、いりごまとすりごまの香りの違い、すりたて特有の香気成分、ねりごまとの違い、香りを生かす使い方と保存まで整理します。
ごまを煎ると香ばしい香りのもとが生まれ、すりつぶすとその香りを感じやすくなります。
日本調理科学会の研究でも、加熱条件によって香気の強さや質が変わることが示されています。
すりたての香りは1種類の成分だけでできているわけではありません。
日本食品科学工学会の研究では、既知の炒りごま香に加えて、低沸点のroast/cooked香(焙煎・加熱したような香り)やsulfur香(硫黄系の香り)を持つ複数成分が確認されています。
香りを優先するなら、必要な量を食べる直前にするのが分かりやすい使い方です。
市販のすりごまは開封後に密閉し、直射日光・高温・多湿を避け、商品表示に従って早めに使います。
ごまはなぜすりたてが香る?先に結論
ごまをすった直後に香りが強く感じられるのは、「することで新しい香りをゼロから作る」からではありません。
まず煎る工程で香ばしい香気が形成され、その後に粒を砕くことで、香気成分が外へ出て鼻へ届きやすくなる、と分けて考えると理解しやすくなります。
かどや製油も、すりごまについて「いりごまをすったごま」と説明し、すりつぶすことで香りが立ちやすくなると案内しています。
一方、いりごまは粒の形が残っているため、かんだり、ひねったりした瞬間に香りが広がる食べ方ができます。
粒のままのごまにも香りはありますが、表面が保たれている間は、内部の油分や香気が一度に外へ出るわけではありません。
口の中でかみ砕いたときに急に香りが広がるのも、粒が壊れて内部が露出するためです。すりごまは、この「砕く」工程を食べる前に行っていると考えると、香りの違いをイメージしやすくなります。
「香りを作る」と「香りを出す」は別
煎る工程では加熱によってごまの香ばしい風味が強まり、する工程ではその香りを感じやすくします。
家庭でいりごまをさらに乾煎りするときは、焦がすほど加熱すればよいわけではなく、香りが立ったところで火を止める考え方が基本です。
ごまの香りは「煎る」と「する」でどう変わる?
日本調理科学会の研究では、市販の白いりごまへ追加加熱を行い、加熱条件によって香気成分と官能評価(人が実際に香りや味を感じて評価する試験)が変わることが調べられています。
その結果、加熱方法によって「香ばしく甘い香り」などの強さに差が生じ、ごまの香りは単に加熱したかどうかだけでなく、温度・時間・湿度などの条件でも変わることが示されています。
そのうえで、いりごまをすりつぶすと粒の構造が壊れます。
内部の油分や香気成分が表面へ出やすくなり、口に入れる前から香りを感じやすくなるため、同じいりごまでも「粒のまま」と「すった直後」では香りの立ち方が変わります。

家庭で「追い煎り」するときは焦がし過ぎない
すでに市販されている「いりごま」は加熱済みなので、家庭で必ずもう一度煎る必要はありません。
香りを立たせる目的で短時間温める場合も、強火で長く加熱すると香りのバランスが変わったり、焦げた風味が前に出たりします。
かどや製油は、家庭で煎ったごまを使う場合には、すり鉢で扱う前に冷ますこと、調理器具をしっかり乾燥させることを案内しています。
香りを強くしたいからと高温で煎り続けるのではなく、香りが立ったら加熱を止め、必要な分をするほうが扱いやすいでしょう。
粗ずり・細かいすり方でも仕上がりは変わる
すりごまは、すべての粒を完全な粉にする必要はありません。
かどや製油は、すり方の程度によって「あらずり」「半ずり」「七分ずり」などと呼ばれることを紹介しており、粗めにすれば粒の食感を残しやすくなります。
ごま和えの衣として食材へよく絡ませたいなら細かめ、汁物や麺の薬味として粒感も残したいなら粗めというように、料理に合わせて調整できます。
香りの強さだけを追うのではなく、食感と油の出方まで含めて「どこまでするか」を決めると、すりごまを使い分けやすくなります。
すりたてごまの香気成分は1種類ではない
「ごまの香り」と聞くと、セサミンという成分を思い浮かべる人もいるかもしれません。
しかし、セサミンはゴマリグナン(ごまに特徴的に含まれる成分群)の一種であり、すりたての香りそのものを代表する揮発性香気成分ではありません。
日本食品科学工学会の研究では、すりたてごまの特徴香について分析し、既に知られていた炒りごまの香気成分に加えて、低沸点の焙煎・加熱系の香りや硫黄系の香りを持つ複数成分が関係することを示しています。
その一つとして、2-メルカプト-3-ペンタノン(すりたてごまの特徴香に関わる含硫化合物の一つ)が同定されています。

低沸点の成分は「すりたてらしさ」に関係する
低沸点の香気成分は、比較的揮発しやすく、鼻へ届きやすい性質があります。
すった直後に「香りが急に広がった」と感じやすいのは、粒が砕けたことに加えて、こうした揮発しやすい成分がまとまって感じられることも関係します。
同じ理由で、すりごまを長く開けたままにしておけば、すりたてとまったく同じ香りが永久に続くわけではありません。
香りを重視する料理では、必要な量を最後にすり、和える・かける・仕上げる直前に使うと特徴を生かしやすくなります。
いりごま・すりごま・ねりごまは何が違う?
いりごま、すりごま、ねりごまは、原料が同じごまでも加工の程度が違います。
かどや製油のQ&Aでは、いりごまは「煎ったごま」、すりごまは「いりごまをすったもの」、ねりごまは「いりごまをとろりとなるまでペースト状にすりつぶしたもの」と整理されています。
| 種類 | 状態 | 香り・食感の使い方 |
|---|---|---|
| いりごま | 粒の形を保ったまま煎ったもの | 粒の食感を残し、かんだ瞬間の香りを生かしやすい |
| すりごま | いりごまをすりつぶしたもの | 香りが立ちやすく、和え衣や仕上げに使いやすい |
| ねりごま | さらに細かくペースト状まで磨砕したもの | 濃厚なコクと滑らかな口当たりを生かしやすい |
どれが上位という関係ではありません。
料理で欲しいのが「粒の食感」なのか、「広がる香り」なのか、「なめらかなコク」なのかで使い分けます。
少量なら「ひねりごま」も使いやすい
いりごまを指先でひねりつぶす「ひねりごま」は、粒を全部すりごまにせず、少量だけ香りを出したいときに使えます。
かどや製油も、いりごまをひとつまみして指でひねりつぶす方法を紹介しています。
おひたし、汁物、麺類などでは、粒の食感を少し残しながら香りを広げたい場合があります。
その場合は、全部を細かくするより、ひねりごまや粗ずりのほうが料理に合うこともあります。
「切りごま」は粒とすりごまの中間として使える
乾いたまな板の上で、いりごまを包丁で刻む「切りごま」という使い方もあります。
かどや製油は、刻むことで香りがよく出て、適度に食感も残ると紹介しています。
すり鉢を出すほどではない少量の薬味や、粒を完全につぶしたくない料理では便利です。
いりごま、切りごま、すりごま、ねりごまと加工を進めるほど、食感と料理へのなじみ方が変わるため、「香りを出したい=必ず細かくすればよい」ではありません。
すりごまの香りを生かすには?保存と使うタイミング
香りを優先するなら、いりごまを粒のまま置いておき、必要な分だけ使う直前にする方法が分かりやすいです。
かどや製油も、すったごまはなるべく早く使い切ることを案内しています。

市販品については、商品に書かれた保存方法を優先します。
かどや製油の家庭用いりごま・すりごまでは、直射日光、高温・多湿を避けて保存することが示され、オンラインショップでは開封後にチャックを閉め、賞味期限にかかわらず早めに食べるよう案内されています。
冷蔵庫へ入れれば必ず良い、とは限らない
未開封・開封後の保存は、商品ごとの表示に従うのが基本です。
「香りを守りたいから」と自己判断で何でも冷蔵するより、まず包装の保存条件を確認し、湿気やにおい移りを避けてしっかり密閉します。
- 香りを立たせたい:食べる・和える直前に必要量をする
- 市販のすりごま:使用後は袋をすぐ閉じる
- 保管場所:直射日光、高温・多湿を避ける
- 開封後:期限だけを頼りにせず、商品表示に従って早めに使う
ごまは油分を多く含む食品なので、長期間の高温保存や開けっぱなしは風味を落とす原因になります。
普段と明らかに違う古い油のようなにおい、刺激的な異臭、カビや湿気による異常がある場合は、香りの弱まりとは別に判断してください。
料理では、ほうれん草のごま和えなら和える直前、うどんや汁物なら器へ盛った後、冷ややっこやサラダなら食べる直前にすりごまを加えると、立ち上がった香りを感じやすくなります。
一方、煮込みの初めから加える料理では、香りだけでなくコクや全体へのなじみを狙う使い方になります。同じすりごまでも「いつ入れるか」で役割を変えられると考えると実用的です。
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ごまの香りについてよくある疑問
いりごまとすりごまは、どちらのほうが香りが強い?
同じ原料・焙煎条件なら、すりつぶすことで香りが立ちやすくなるため、すりごまのほうが口に入れる前から香りを感じやすい傾向があります。一方、いりごまは粒をかんだ瞬間に香りが出るので、料理の狙いで使い分けます。
すりごまは使う直前に作ったほうがいい?
香りを重視するなら、必要な分を直前にする方法が向いています。市販のすりごまも便利ですが、開封後は密閉し、商品表示に従って早めに使います。
ごまの香りはセサミンの香りですか?
同じ意味ではありません。セサミンはゴマリグナンの一種です。すりたての特徴香には、炒りごまで知られる香気成分に加えて、低沸点の焙煎・加熱系の香りや硫黄系の香りを持つ複数の揮発性成分が関係します。
市販のいりごまは、もう一度フライパンで煎るべき?
必須ではありません。いりごまはすでに煎った商品です。香りを立たせるため短時間温めることはできますが、長く強く加熱すれば必ずおいしくなるわけではなく、焦げた風味が強くなることもあります。
ねりごまとすりごまは同じものですか?
加工の程度が違います。すりごまはいりごまをすったもの、ねりごまはいりごまをさらに細かくすりつぶし、ペースト状にしたものです。粒感・口当たり・料理へのなじみ方が変わります。
まとめ|ごまの香りは「煎る」と「する」を分けて考える
すりたてごまが強く香るのは、単に「すったから新しい香りが生まれた」という一段階の話ではありません。
煎ることで香ばしい香気が形成され、することで粒の内部が露出し、揮発性の香気成分を感じやすくなるという二つの工程が重なっています。
さらに、すりたて特有の香りは一つの成分だけではなく、焙煎・加熱系の香りや硫黄系の香りを持つ低沸点成分を含む複数の香気から成り立ちます。
いりごま・すりごま・ねりごまは優劣ではなく、食感・香り・コクをどのように料理へ出したいかで使い分けるのが実用的です。
香りを主役にしたいときは、粒のいりごまを用意し、必要な量を食べる直前にする方法が分かりやすいでしょう。
市販のすりごまはしっかり密閉し、直射日光・高温・多湿を避け、表示に従って早めに使うことで、ごまらしい風味を生かしやすくなります。
参考・確認先
- 日本食品科学工学会誌「すりたてゴマの香気成分」
- 日本調理科学会大会研究発表要旨集「ごまの香りを引き出す製法と嗜好との関連性」
- かどや製油「ごまのQ&A」
- かどや製油「食品ごま」いりごま・すりごま
- かどや製油「ねりごま」
香りの感じ方は焙煎条件、すり方、原料、保存状態、料理との組み合わせによって変わります。












